【特別編】児童虐待と防止について「抱きしめてあげたい」

親と子どもの特別な関係性

待望の我が子と向き合っているのに、ポロポロ涙が出てとまらない、だけどしみじみ自分を満たしてくれる関係性があるという思いへの気づき。親となるプロセスや子どもとの関わりを通じて、親と子どもにはいろんなストーリーが生まれます。子どもと出会うことは、いわば「特別な関係性との出会い」。そんなメッセージから始めたいと思います。

「ねぇねぇ」「なあに」「ママ、なでなでしてあげる」。そんな子どもがそっと寄り添ってくれる体験はありませんか。親は子どもの最大の味方ですが、それ以上に、子どもは親の最大の味方かもしれません。そうは言っても、子どもは育つものであり、親の様々な手を必要とする存在。時間もエネルギーも奪われ、親といえど、誰かにケアされなければ、エネルギーを補給してもらえなければ、行き詰るのは仕方がないことです。イライラしたり、思わず傷つける言葉を向けてしまうかもしれません。「どこから虐待?」という悩みも多く聞かれます。虐待の定義は諸説ありますが、ここでは「生きていく上で必要なことが与えられないこと」が最も子どもの心を破壊していく(=虐待)ことであることを前提にお話したいと思います。

子どもを支える存在との心地良い関係性が大切

子どもの心身の健やかな成長のためには、子どもを常に支えてくれる存在「愛着対象」がいること、そして前にふれた「特別な関係性」があること(自分を見つめ、気遣い、気持ちを分かち合えること=心地よい関係性)の2つが大切です。「心地よい関係性」は日々紡がれるもの。「これって虐待かも…」と思い悩むようなことをしてしまった日も、1日のどこかで、一緒に生きていてくれてありがとうって、ギュッと抱きしめてあげられることができれば大丈夫。もし、そんな余裕がなくても、ほんの少しでも子どもの心に寄り添う気持ちがあればいいと思います。

心配なのは、こうした子どもとの関係性のバランスが崩れてしまった場合。子どもを傷つける言動や不安定な生活環境が与えるマイナスの影響(あえて言うならトラウマ)が、この2つの大切なことから補給されるエネルギーを大きく上回ってしまうとき、子どもの心は傷を深め、成長と共に生きづらくなるような様々な症状を表してくることがあります。

不適切な関わりが子どもに与える影響

乳幼児期から学童期は、脳が発達し心の基礎作りとして重要な時期です。厳しい体罰によって、脳の前頭前野(社会生活に極めて重要な脳の部位)が小さくなったり、暴言を聞いていることで聴覚野(声や音を知覚する部位)が変形したりする(※1)など、近年、子どもへの不適切な関わりが脳にも大きな影響を及ぼすことが報告されています。また、体罰を受けて育った子どもは、「落ち着いて話が聞けない」「約束が守れない」「一つのことに集中できない」「我慢ができない」「感情をうまく表せない」「集団で行動できない」という行動のリスクが高まるなど、情緒行動面でも影響が出るとも言われています(※2)

このようなことは、子どもが学んだり、他者と関わる際の難しさにつながったり(社会性の問題)、生きづらさという悪循環に入る可能性につながることともなります。厳しい話をしましたが、先に挙げた2つの大切なこと「愛着対象」と「心地よい関係性」を基本に子どもを支えることで、悪影響を回復し成長することが可能です。子どもの気持ちを感じ、受け止め、困ったときに支えることができる安心できる環境を整えること。気づいた時から百点満点を目指さなくてもいいのです、いつでもできることから、始めてみませんか。

※1)厚生労働省 啓発パンフ「子どもを健やかに育むために〜愛の鞭ゼロ作戦〜」
※2)厚生労働省「体罰によらない子育てのために〜みんなで育児を支える社会に〜」(体罰等によらない子育ての推進に関する検討会 令和2年2月)

子育ては本来、共同養育。「あなたは一人じゃない」

そう言われても、何も始められない、何か取り組めるエネルギーももうない…と思うときもあるかもしれません。親も、心配事や悩みなど様々な思いが溢れて、子どもに関わることが難しいこともあると思います。子どのもを支える存在になるためには、親も支えられ、常にエネルギーを補給される「安心の環境」に守られることが大切です。そもそも子育ては、一人でするものではなく、多くの人が一緒に行う共同養育歴史が長いものでした。家族にも相談できない、周囲を見渡しても難しい…と感じる時、様々な公的、民間の相談先もあります。お住いの市や町の母子保健担当の保健師さんにも相談してみませんか。「助けて」の一言は勇気がいるものかもしれませんが、その一言を待っている人がいることも忘れないで下さいね。

子どもとの関わり方に悩むことは、すでに関係を改善する第一歩。子どもは自分の良いところを見つめてくれる「親の温かいまなざし」と、困ったときにいつでも助けてくれる”安全基地”としての「親の守り」で健やかに育ちます。完璧を目指さなくてもいい、一つずつでいいんです。親自身がご自分を大切にできる環境が、子どもとつながるエネルギーにつながります。

最後に『抱きしめてあげたい〜あなたは一人じゃない、大丈夫〜』をご紹介します。これは、2012年に石川県から出版したママ・パパ子育て応援BOOKです(子育て支援財団いしかわおやコミnet※で読めますので、アクセスして頂けると嬉しいです!)。制作に関わり、冒頭の「ショートストーリー」や「でも大丈夫!親として心にとめたいコト」ではお伝えしたい思いを私自身の言葉でお届けしました。その冒頭部分を引用しま
す。「子どもが生まれるって 抱きしめたい人が すぐそばにできることなんだね 親子になるって 抱きしめたら 抱きしめかえしてくれる手が あるってことなんだね」。

小児科

石川県南加賀健康福祉センター

沼田 直子先生

石川県南加賀健康福祉センター所長。小児科医。昨年の日本子ども虐待防止学会いしかわ金沢大会の大会長も務める。